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 6月4日(土)

ウィングス小説大賞終了に寄せて: ウィングス文庫のお勧め作品

少し前になりますが、以下のようなウィングス小説大賞終了の告知がありました。


ルルル文庫でも同様の発表が先日あって、少女小説界に暗雲たちこめるのを感じていたんですが、ウィングスでも来るとは……。ここ10年でも賞からの書籍デビューは数えるほどで目立つ賞ではありませんでしたが、雑誌に載る受賞候補作は雑誌を買う楽しみの1つでもあったので、読めなくなるのは寂しいです。

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で、ここからが本題。こういうニュースの際、「作品はあまり知らないけど……」という枕詞がつきがちなウィングス文庫のお勧め作品を挙げようコーナーです! 金星特急のおかげで「金星特急は面白かった」という声も聞くようになり、ウィングス文庫ファンとしては嬉しいですが、他にもまだまだ面白い物語があるんです。

作品の傾向をざっくり書くと、恋愛要素は少女小説レーベルにしては薄めで、コメディ一辺倒もあれば思いっきりシリアスもあり。あと、お人好し多め、といった具合。
寡作なレーベルなので古い作品が多くなりますが、幸いウィングス文庫は品切れが少なく、旧作も多くはamazonや公式通販で手に入るので、新刊派の皆さんにも安心仕様です! 正直、調べたら思った以上に入手できる作品多くてビックリしました。

それでは以下に挙げていきます。



姫君返上! (和泉 統子)  【amazon】【公式】 全5巻+番外編2巻
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皇女として育てられた女装皇子様が主役のファンタジー。お世継ぎ争いなど設定には重たいところもあるんですが、中身はかなりコミカル。皇族としてはちょっぴり考えなしなところもある女装少年のアレクが、女装しているのを忘れてやらかしそうになったり腹黒毒舌な兄に振り回されたりする苦労の日々が楽しいです。

この物語の好きなポイントの1つが、本筋の途中で繰り広げられる、準主役のノエル(祓魔師)とその師兄のラブコメ模様。好きな想いがあり余ってNG発言をしたり墓穴を掘りまくるノエルの姿がとても乙女でかわいらしくて、毎巻出番を楽しみにしていました。本筋を食うくらいに人気あったようで、この2人メインの番外編が1冊出たくらい。良い脇カップルでした。

あと、お勧め記事としてはちょっと書きづらいのですが、最終巻がとても好きなんです。主人公の素敵な成長が見れて、二転三転してどこに落ち着くか分からない物語も面白く、最後はブラボー!!と叫びたくなる気持ちよさ。この爽快感は今まで読んだ物語でも有数で、心に焼き付いてます。

(同著者でもう1作) 単行本ですが最近完結した「青薔薇伯爵と男装の執事」が、こちらも読み終わって気持ちよかった!!と叫んだロマンス。この気持ちよさが和泉さんの作風の1つなんだなと思います。

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金色の明日 (甲斐 透)amazon】【公式】 全2巻
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浮浪児の女の子ミオーニが騎士の青年ダニエルに助けられるところからはじまるファンタジー。
与えられた優しさをきっかけに変わっていくミオーニ、彼女のダニエルを信じる真っ直ぐな思いや、時には戦火の中を駆けたりと全力で頑張る姿が、とても眩しい。頑張る女の子って素敵だなと思えるお話です。歳の差な恋愛模様も、なかなか想いが伝わらなくて焦れ焦れで良いのです。
帯の「負けるな、女の子。ガールズ・ビー・アンビシャス」というのがピッタリくる物語。

(同著者でもう1作) 「エフィ姫と婚約者」も女の子の意志の強さが素敵なファンタジー。こちらは俺様ヒーローです。

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パートタイム・ナニー (嬉野 君)amazon】【公式 全3巻
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嬉野さんのデビュー作、金星特急とは全然毛色が違う乳母コメディです。金星特急が出た当時、嬉野さんこんなのも書くんだと驚いたのも遠い昔。

男子高校生が同年代の外国人の乳母をする、とだけ書くとそんなに変哲のないお話ですが、お守り対象であるバブー(愛称)がとにかく突き抜けたキャラクター。桁違いの金持ちで間違った日本観を持ち、時には世界規模の騒動を引き起こす。「乳母というよりは猛獣使い」と評されるくらいのトラブルメーカーで、次々と起きる騒動、振り回される主人公・剛の受難、そしてお仕置きされるバブー坊っちゃま、といった感じで、無茶苦茶さがとても楽しい。

こういう振り回される系作品の中には、時にイラっとさせられるキャラが出ることもありますが、バブーは常識なくても反省はするし憎めない性格で好感持てる子でした。家族や使用人などのサブキャラも個性あっていい味だしてますが、なんだかんだで面倒見いい剛とバブーの関係が一番のお気に入り。

(同著者でもう1作) 冒険と恋が詰まった傑作の「金星特急」ももちろん大オススメです。

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霧の日にはラノンが視える (縞田 理理)amazon】【公式 全4巻
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現代のロンドンに妖精郷ラノンの人間たちが紛れ込んだ、という設定のファンタジー。まず魅力的なのが世界観、ラノンの人々も組織を作ったりとちゃんと現代に生きていて、その一方で妖精伝承や魔法などの不思議も残っていて、現代にうまくファンタジーを混ぜ込んでいるなあと感じます。
ラノンの人々にとって、現代は決して暮らしやすい世界ではないのですが、優しい登場人物が多く、どこか暖かな雰囲気を作中全体に感じるのも好きなところ。

個人的な推しポイントは、ほんのり恋心であったり、女の子たちの友情であったりといった、少女小説らしさが見られるところ。素直になれない女の子の鈍感少年への片想いがかわいくて! はじめてのロンドンで偶然出会った少女たちが、悪役を跳ね除けるくらいに仲良くなっていくのも素敵。恋愛がメインでない作品で、こういう面もあると嬉しいですよね。

物語が進むにつれて、ラノン全体を巻き込む大きな話になり、胸が熱くなるワクワクも見せてくれます。キャラクターと物語のバランスが良くて、全部読み終わった後に満足感に浸れるファンタジー。苦労人のレノックスがお気に入りキャラです。

(同著者でもう1作) ラノンとはうってかわったスチームパンクの「ミレニアムの翼」の、苦労人の便利屋が家出少年や王女様といった個性豊かな面々に振り回される賑やかさも好きです。苦労人キャラに弱いんですよね自分。

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結晶物語 (前田 栄)amazon】【公式 全4巻
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「人魚姫」「浦島太郎」など様々な童話をモチーフに、人間とあやかしの感情を描いた現代ファンタジー。「人の感情を抜き出し結晶化できる」能力を持った凍雨と、彼に弱みを握られている黄龍がメインキャラ。支配/非支配な関係なんですけれど、凍雨が結構なおとぼけキャラで、ワガママで振り回す友達じみたやり取りになっているのが楽しい。
凍雨のあやかしらしさが「人の発想ではありえない残酷さ」からくる怖さと「嘘がつけない」「常識しらず」といった要素から来るオトボケ方向の両面で表現されていて、その二面性のバランスが気に入ってます。普段は昼行灯だけど怒ったら一帯を吹き飛ばしかねない凍雨パパも、同じく良い二面性。

童話モチーフの各話は、恋や死を扱った切なくビターなものが多め。あやかしが関わることで一捻り加わった展開を見せるのが面白いです。2巻の「眠り姫」を題材にした鵺と少女のお話が、人外の想いの切なさ、あやかしと人間との常識の断絶、黄龍の苦労性な優しさ、など色々詰まっていて好き。

完結後にコミカライズもされてました。今の時代だったらライト文芸路線でもっと人気が出たのではとも思ったり。

(同著者でもう1作) いくつも面白い作品描かれているのですが、中でもお勧めの「天涯のパシュルーナ」は未完という悲しみ。山賊の少年が王子になる王道設定に、前田さん作品らしい人タラシ主人公がハマっていて大好きなんですが……。完結巻待ってます。

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身代わり花嫁と公爵の事情 (奥山 鏡)amazon】【公式】 全1巻
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双子の姉の一時的な代わりに弟が嫁いだら、その相手の公爵は実は男色家で……といったところから始まるコメディ。これだけ聞くとBLな設定なのですが、公爵様は主人公のことを男だと気づかないのでBLっぽさは薄く、勘違いなやりとりがコミカルで楽しい。傷ついた公爵様の心に主人公の側から近づいていくようなハートフルな側面もあって、いい話だなーと思えます。と同時に、自分から飛び込んで惹かれてしまう主人公がかわいくニヤニヤ。

勘違いな関係が最終的にどう落ち着くのか、身代わり物の醍醐味が味わえるお話で、「BLっぽい作品は全部駄目」でなければお勧め。

中編がもう1作載っていて、こちらは結婚したての夫妻によるコメディ。愉快すぎる夫の発想に笑いっぱなしでした。

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洪水前夜(あふるるみずのよせぬまに) (雁野 航)amazon】【公式】 全1巻
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古代バビロニアを舞台に、天使や怪物といった人ならざるものを描いた、愛の物語。
不死身で孤独に戦い続ける勇士アダ、アダに家族を殺されたと思っている少年トバルカイン、そして襲い掛かってくる怪物。シリアスに進む物語でネタバレなしに語りづらいのですが、孤独なアダの寂しさや、真実が明らかになった後の激しい感情や愛の形がとても胸に響いて、迎える結末も心に残ってます。

残酷でえぐい描写もあるので人を選ぶ作品ではありますが、あらすじに惹かれたなら是非。