9月28日(土) |
<最近読んだ本> ◆ 四旬節(カレーム)の恋人 (橘香 いくの/コバルト文庫) 【amazon】 不定期懐かしいものシリーズ、今回は橘香いくのさんの初期作品から。 とても楽しくて切なさ混じりで面白かった、橘香さん作品で一番好きかも! 時は十九世紀フランス、プレイボーイの貴族青年が親の事業失敗で借金生活に転落し、持参金目当てにある女の子に近づいたら……と感じで始まるお話。設定自体はベタですけれど、まずこの作品は描き方が非常にコミカル。序章、騙すことを決意するパトリスの一人称を読んだだけで、「これ恋に落ちて凄くニヤニヤできるやつだー!」とワクワクしちゃいました。その期待は裏切られませんでした。 その相手役であるジュディットも素敵なお嬢さん。男のように生きたいのに許してもらえなくて、その気持ちが男嫌いに繋がってる、勝ち気な女の子で、まともに話聞いてくれるパトリスに興味持っていくのにニヤニヤ。一方のパトリスも、今まで出会ったことないタイプのジュディットと過ごすのを素直に楽しんでるのにニヤニヤ。ジュディット側も一人称で気持ちが描かれて、交互に視点が動く形式なのも、両視点見るのが好きな自分には嬉しかったポイントでした。 さらにベタから一歩楽しさを増してくれたのが、ジュディットの楽しい勘違い。パトリスが同性愛者という勘違いを引きずり続けて、なかなか恋愛に行こうとしないのが楽しい楽しい。一発ネタではなく、勘違いのままジュディットの気持ちが育っていったのが良かったなと思います。 そんなコミカルな話ですが、後半は切なさもたっぷり。二人とも相手を騙してた引け目があって、両想いなのに近づけないのが切ないです。特に自分を責めるパトリスの気持ちが苦しい。終盤の列車でのシーンは胸に響きました。『ぼくはもう、それを裏切れない。今度こそ、裏切らない』あたりは本当にグッときた。 ロベールやエミリーといった脇役もいい味だしてました。今振り返ると、ロベールはパトリスを最初から認めてて近づけたんですよね。プレイボーイのときからロベールなら上手くいきそうなことを見抜いてたわけで、人間観察力凄い。 最後は綺麗に笑って終われて、いい作品でした。橘香さん作品はまだ何冊か積んでいるので、また近いうちに読むつもりです。 評価 ☆☆☆☆★(9) ◆ おこぼれ姫と円卓の騎士 皇帝の誕生 (石田 リンネ/ビーズログ文庫) 【amazon】 おこぼれ姫最新刊は、レティ囚われ編ということでデュークとアストリッドが大活躍でした。デュークは策の面で、アストリッドは力と心の面で、大分成長したんだなあと感じました。デュークはこんなに智謀派になっていたとは、ユージェスの出し抜きはお見事。アストリッドも第二騎士としての自覚が見れて、暖かい気持ちになりました。 メインストーリーではアナスタシアもアルトールも楽じゃない決断をしていくのが眩しい。レティだけじゃなく、悩んで進む王族や貴族がかっこいいシリーズですね(一部除く)。そして最後のアレ。レティはそう簡単には気持ちの片鱗も外に見せないでしょうが、どうなるんでしょう。 それにしてもノーザルツ公は本当にかわいいですね。出番少なくてもとても存在感あります。この大人ツンデレたまらない。次巻でも期待。 評価 ☆☆☆★(7) |
9月19日(木) |
<最近読んだ本> ◆ (仮)花嫁のやんごとなき事情 離婚の裏に隠れた秘密!? (夕鷺 かのう/ビーズログ文庫) 【amazon】 コメディにシリアスにラブに、盛りだくさんで面白すぎる!! 「(仮)花嫁」シリーズ第5巻は、シレイネ様来襲の後編でしたが、いやー今回も面白かったです。最優先で読んでよかった。金星特急が完結した今、続いている中で一番好きなシリーズです。 まず開幕、クロウの偽シレイネ様トーク@フェル相手にゴロゴロ。こんなにフェルのこと見てたよ信頼してるよアピールとか、そりゃフェルの心に響きますよ。その後にフェルをしっかり煽って、旦那さままじ策士。それを受けてのフェルのシレイネ様へのアピール、それ逆効果だからー! と内心叫びつつも旦那さま好き告白にニヤニヤ。 で、シレイネ様と旦那さまのバトルにドキドキした後に、前半の山場、かぶり物フェル登場。シリアスなシーンなのにコメディでぶち壊してくれておまけに格好いい、このシリーズの一種の象徴みたいなシーンでしたね、しっかりイラストつきで楽しい楽しい。 そして一区切りついた後の旦那さまですよ。自分で策練っておいてこの人!! かわいいな全くもう! フェルの悪口にグサッとなったりしているところもかわいい。この2人最高ですね。 ここからセタンタ王の登場にはびっくり。てっきりラスボスだと思っていたら全然違いました、こんな人だったとは。でもこの分かりやすい愛情行動は好きです、いい話だなーとあったまる。シレイネ様かわいかった。 その影にあるフェルとクロウの策動も良かった。フェルはとことん笑わせてくれるし、クロウは目的のためとはいえ、行事絡めた綺麗な策を決めてくれるし。 その中で2人の関係も進むからもうたまらないですね。クロウの神誓とかときめくに決まってるでしょう。エピローグのキスもときめくに決まってるでしょう。この2人最高ですね(2回目)。 メインストーリー以外でも、コメディ・シリアス・ラブ合わせてとにかく随所に見どころありました。キャラが増えて色んな絡み方しているからだと思います、ガウェイン先生とラナが仲間意識抱くところとか好きです。恐怖のキーワード「減給」も笑えます。クロウとキリヤの気の置けない幼なじみ会話もおいしい。ほんと、全部まとめて大好きですこのシリーズ。 さて、ここまでの情報を整理すると、黒幕はシレイネの妖精サイドのお兄様ってことでしょうか。そいつがワルプルギスにやってくる、と。あとはシレイネが聖詩篇を嫌ってるのを見ると、引っ張っている聖詩篇に何かがありそうな気が。 で、この黒幕に向かって佳境に入っていくのかと思ったら、ラストなんですかそれー! クロウの心を抉るような展開になりそうですね、これの背後にも同じ黒幕いるんですかね。傷つくクロウをフェルがどう支えていくのか、続きももちろん大期待。 評価 ☆☆☆☆★(9) ◆ ミレニアムの翼2 320階の守護者と三人の家出人 (縞田 理理/ウィングス文庫) 【amazon】 先週、2巻発売記念で縞田先生とTHORES柴本先生の合同サイン会があったので、参加してきました。一人あたりの喋れる時間が結構長くて緊張しましたが、ラノンの話を伺えたりできたし、行ってよかったです。ちなみに男性率は5%ほどでした、思ったより多かった。 で、作品の方は1巻に引き続き4人の関係が素敵でした。サイラスが面倒見の良いお父さんポジションで、個性の濃い3人の子供に振り回されながらも家族っぽくまとまっていて、4人でいるときの楽しげでリラックスした空気がいいなと思います。書き下ろしの短編でも、ラモーナに「好き」とは何かと問われてタジタジになるお父さんと見つめる子供たち、な構図が大変愉快でした。 それに加えて、今巻出てきたジョニーパパも良いキャラクターでした。最初はよくある親子のすれ違いかと思いきや、この父親自体が強烈なキャラ。ありがた迷惑な余計なお世話が完全に「この父にしてこの子あり」で笑えました。ジョニーの前でタバコ吸おうとしたりするのはわざとですよね、親子コミュニケーション楽しんでる。迷惑でも憎めないし、子供思いだし、いいパパでした。 ナッシュが捕まって何じゃそりゃー! で1巻が終わっていたストーリーの方は、まさかの時間跳躍ネタが出てきて、なるほどなるほど、な展開。最初はびっくりしましたけど重力制御などもある世界ですしSFでも全然おかしくないですね。ガジェットを楽しんだり、ナッシュの大物っぷりに感心したりで、面白かったです。 これから反撃開始、な引きにワクワクさせられ、最終巻も楽しみ。敵さんはケイシー側の方が手強そうなので、王宮サイドの敵がどのように動くのかに注目してます。 評価 ☆☆☆☆(8) |
9月16日(月) |
<最近読んだ本> ◆ わたしのノーマジーン (初野 晴/ポプラ文庫) 【amazon】 「1/2の騎士」など、社会問題を絡めた現代ファンタジーを書かれている初野さんの文庫落ち作品。 とても初野さんらしい、重たくも切ない物語でした。 宗教や終末論が広まった荒れた世界が舞台、孤独に暮らすシズカのもとに、喋るサルのノーマジーンが訪れるところからはじまる物語。ほぼ全編に渡って一人と一匹の閉じた暮らしだけで話が進むんですが、この暮らしの描写が暖かくて良かった。 両足が動かなくて革製品を修復して細々と生きていた、シズカの生活やその心理描写がしっかりしてて、だからノーマジーンの存在がどれだけ大きいかが分かるんですよね。ノーマジーンは知識が小学生並みでお調子ノリな性格なこともあって、仕事台なしにしたりイラっとさせられることもあるんですけど、その明るさにどんどん情が移っていくのが伝わってきます。 完全に社会から切り離された生活は決して優しいものではないんですけれども、怪我して帰ってきたノーマジーンの健気さにはグッときましたし、切なくも暖かい暮らしが良かったです。 で、これだけで終わらないのが初野さん。暮らしのあとに待っていた第二部が強烈でした。暮らしの中で宗教や死刑のことを結構詳細に書いていたので何かあるとは分かってましたが、そんな重たい事実だとは。なんて残酷なリンゴの木。なんて残酷な社会。舞台は荒廃した世界でも、描かれる問題は我々の世界にも存在するもので、理不尽に憤るとともに、現実にも似たようなことがあるかもしれないと考えて心が重たくなりました。排他的な社会は本当に恐ろしい。 ノーマジーンを避けてしまうシズカの気持ちは、描写が短いのもあって完全には理解できませんでした。でも、理性と感情は噛み合わないこともあるし、そう割り切れるものでもないんでしょう。そう考えると、世界の理不尽さが5割増しで伝わってきます。 何より、エピローグでシズカは間違わずに選びとれて良かった、そのことが全て。この先も楽な生活ではないんでしょうけど、2人でいるだけで生きていける、そう思えるラストでした。 初野さんの物語は、ハッピーではないけれど重いだけでもない、この切なさがいいです。まだ読んでない作品もあるのでそのうちに。 評価 ☆☆☆☆(8) ◆ デ・コスタ家の優雅な獣5 (喜多 みどり/角川ビーンズ文庫) 【amazon】 少女の成長がめざましいマフィアストーリー「デ・コスタ家」シリーズ最終巻。 ロージーがロージーらしくて、納得いくラストでした。 発売前に表紙をwebで見て「ああやっぱり……ダリオ……」と悲しい気持ちになったんですが、いざ読んでみると、これしかないというストーリー。「悪い子」になってきたロージーが、ファミリー自ら守りたいと考えたら、ダリオの花嫁になる線はないですね。ずっとダリオ派だったので少し残念ではありましたけども、ダリオも格好いい男へと成長した姿を見せてくれたし、満足してます。 他のファミリー面子では、ノアは煮え切らなくていまいち好きになれませんでしたけど、ロージーをちゃんと守ってたし、相手役としてはありかな、と。エミリオはもう少しデレるかなと思ってたんですが、ずっとひどい人でしたね。でも彼なりの信念は明確だったし、たまに見せる人間らしさが好感持てました。 メインストーリーは最後までロージーがかっこよかった。特にダリオとリカルドを相手取っての取引で、震えつつも恐怖を受け入れて凛と立つ姿が素敵。イラストも良かったです。全5巻、ロージーが変わっていく方向性が目新しくて、少女小説として大変面白かったです。次回作も楽しみ。 評価 ☆☆☆☆(8) ◆ 八百万の神に問う2 夏 (多崎 礼/C★NOVELSファンタジア) 【amazon】 多崎さんがおくる音討議ファンタジーの「承」の巻は、シン目線のイーオンがかっこいい巻でした。普段はグータラだけれど実は、というキャラ造形はよく見かけますが、今回のイーオンの場合、ヒネた少年視点であること、サヨ目線だけで分かるイーオンの不調、それでも見せてくれる音討議での吸引力などが組み合わさって、かっこよさに繋がっているなと思います。イーオンとシンがこれからどんな師弟関係になっていくか楽しみ。体調不良+最後の弟子、という足し算はちょっと不安もありますが……。 2巻の中心はシンの過去と成長。シンが楽しさや恋を知っていくのは素直に良い話だなと感じた一方、オーソドックスでで若干物足りない感もありました。音討議が最後だけで少なかったのが大きな原因かなと思います、もう1つ2つ盛り上がりがあると嬉しかったかな。 そんなだったので、最後にきた爆弾には驚きとワクワク。そうきますかー、世界を広げて、楽土の存続に関わるような大きな話になっていくんでしょうか。実りの秋を期待して待ちます。 評価 ☆☆☆★(7) |