4月15日(火) |
<最近読んだ本> ◆ 帝都探偵 謎解け乙女 (伽古屋 圭市/宝島社文庫) 【amazon】 評判を見て気になった作品。ちょうどサイン本を手に入れる機会に恵まれたこともあり、読んでみました。 やられた! 面白かった! 舞台は大正時代、俥夫の寛太と女学生でお嬢様の菜富さんが数々の事件と出会い解決していくお話。もうこの設定だけでときめきますよね、快活なお嬢様がヒロイン、さらに身分差ありなんておいしいです。 お話は、菜富さんが迷推理をして、寛太が悩みつつ真相を導き出していく連作短編形式。よくある形式ではあるのですが、自信満々に大ハズレをかましたり、時折恋心が見え隠れする菜富さんがかわいらしく、また謎解きの難易度もちょうどよくて、読んでて楽しかったです。一つ目の事件の落とし方が綺麗で好き。 ただし、このお話の本番は、連作部分ではなくて終盤。見事な展開、見事な伏線回収でした。何語ってもネタバレになるのでここから反転。 こんな二段三段構えの伏線、私に見抜けるわけがないですね、いやー凄かった。私のミステリ力だと「小早川怪しいな」で思考停止するんです。だから最初の種明かしだけで十分驚かされたんですよ。ホームズのもじりは気づけないにしても、煙草の伏線なんか、言われてみると!感がたっぷりですし。参りました。 で終わらないなんて! その落ちは全く頭になかったです、やられた。小早川ショックからの溜めが短いのが惜しいですけど、これもちゃんと序盤から伏線張ってますしねえ。表紙については少し引っかかっていたのであまり驚きなかったですけど、物語の終わりへの繋げ方が上手かったです。 そもそもですね、ホームズ山ほど読んでるお嬢さんがあんな間抜けな推理をする、そこでまず疑念を抱くべきなんですよ。「迷探偵お嬢さんと名探偵青年」という型に嵌めて見た時点で駄目でした。この型すら狙って書いてますよね多分。完敗です。 ところで、このラストを踏まえた上で、第3の事件ラストはどう解釈すべきなんでしょう。彼はなんであんなことを、からかうにしても変なからかい方。真実の可能性も0じゃないんじゃないかな、身分差解消のために養子縁組で姓名変更するのかな、などと勘ぐりたくなりました。 (反転ここまで) 甘さを期待して買ったら、予想外の面白さでした。綺麗にまとまっているので続きはなさそう。また同じ路線の作品出たら読みたいです。 評価 ☆☆☆☆(8) |
4月6日(日) |
メルフォレスです。 >「お、無伴奏ソナタを〜」の方 面白かったです! エンダーの方も手に入りづらかったのですね。ビーン視点も今月発売されたみたいですし、メディア化凄いですねえ。 時間旅行者は、将来気になりますよねえ。グウェンとギデオンの違いについては頭から抜けてました。ギデオンが耐えれる精神の持ち主だとはあまり思えないので、単に長時間なだけでもまともに生きられないんじゃないかと……。薬の効果打ち消す方法探して跳びまわるのが現実的な路線でしょうか。 矛盾点は手元にないので確認できないんですが、力技なところがある作品ですし、多少整合的じゃない点もあるんだろうなと思いながら読んでました。ギデオンの惚れ方なども分かりづらかったですし。 <最近読んだ本> ◆ カーマリー地方教会特務課の事件簿 (橘 早月/ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ) 【amazon】 オンノベ界での有名作品の書籍化。私がオンノベ読み始めた頃には既にサイト閉鎖されていて、評判をあちこちで見て悔しい思いしてたので、書籍化嬉しかったです。 割とイメージと違いましたが、面白かったです。まず表紙のインパクトが凄いですが、これは中身と全然違っていて、序盤は懐かしい雰囲気のオーソドックスなコメディ。聖騎士ジークが悪名高いオブザー部隊に左遷されて、そこで繰り広げられる濃いキャラたちの日常が、派手さはないけど楽しい。普通のコメディに比べて紙面が黒くて、コメディでもどっしりした感じがあります。 コメディ部分で好きなのは3章、アリッサに振り回されるオブザーが愉快。表紙と同一人物だとは思えません。 本気を感じたのが最後の章、シリアス具合が一気に増して、容赦なさが残酷。オブザーの言葉と表情が胸にきます。あと特筆すべきは宗教描写の濃密さ。聖イザベラの館が生まれる過程など 物語の核として読み応えありました。この点は「宗教を描いた」とはっきり言えるくらいのものになるようです、来月に続きが出るので楽しみ。 評価 ☆☆☆★(7) ◆ 舞姫はじめました 恋も奇跡も氷の上 (和泉 統子/ウィングス文庫) 【amazon】 「姫君返上!」が素晴らしかった和泉さんの新作は、珍しいフィギュアスケート小説。男女逆転カップルがかわいくて楽しかったです。 女顔な少年と凛々しい少女というのは結構見る組み合わせですけど、そこにアイスダンスで逆転して踊るという要素が加わり、さらに少女の方の勇が帰国子女な直球天然でかわいく、楽しいラブコメに仕上がってました。どぎまぎする真理がかわいい。 大会での事故や、年をとって見えなくなる妖怪たちを軸としたストーリー面も面白かったです。挫折があった輝が柔らかくなっていくのは素直にいい話でした。梅吉さん、雑誌で読んだ時は一時の奇跡と思ってたんですけど、陛下の奇跡凄かった。 フィギュア描写もそこそこありますけど、それよりはキャラクターやストーリーの方がメインなので、フィギュア好き嫌いに関わらず楽しめるお話だと思いました。 評価 ☆☆☆★(7) |
4月1日(火) |
<最近読んだ本> ◆ 無伴奏ソナタ 新訳版 (オースン・スコット・カード/ハヤカワ文庫SF) 【amazon】 先日お勧めいただいた、久々に読む海外SFの短編集。過去ログ見るに、最後に海外SF読んでから5年以上たつようで……すっかり少女小説(とファンタジー)の人になってました。 色んな短編が詰まっていて面白かった! まず面白さを味わったのが1篇目の「エンダーのゲーム」。スーツを凍結するフラッシャーでの無重力バトルの描写が、想像力を凄く活性化させてくれて、子供たちの軍隊を率いるエンダーがどんなゲームを見せてくれるのか、始終ワクワクしながら読めました。最後の落としどころは予想つきましたけども、そんなのはこの話の面白さには関係ない。 そして、ガラッと変わった面白さを見せてくれたのが次の「王の食肉」。20ページに満たない短編の中で、奇妙な世界設定と王の残酷さを見せつつ綺麗な落とし所にもっていく、完璧なホラー。怖かったし、構成に無駄がなくて上手さを感じました。 残りの9篇も色が異なるものが多く、どこかに驚きがあってどれも面白かったです。教訓的な意味合いをもつ話、切なく胸をうつ話が多かったかな。ハードなSFではなくアイデアベースでのSFで読みやすいのも、個人的にはポイント高かったです。 特に気に入ったのは「アグネスとヘクトルたちの物語」「無伴奏ソナタ」あたり。「アグネスと〜」は2つの視点で進む物語で、宇宙に出現した謎の物体を調査していく片側の視点だけでもお話成立するし、宇宙への進出やヴォーンとのやり取りだけでも面白いのに、そこにヘクトル視点がついているのが面白さを増してます。これが生命という存在自体がまず面白いし、人知の及ばないところでの会話が意味深。全く交わらない認識のまま進んだ結果のラストに、儚さや人の限界など色々なものを感じました。 「無伴奏ソナタ」は音楽を禁じられた音楽家の物語で。禁じられても音を作ってしまう創作者の業や、彼の音楽に惹かれた者の喜び以外の反応が、悲しく切ない。彼が行き着いた最後のシーンが美しく、胸打たれました。 読んでよかったです、お勧めありがとうございました。他の話も読んでみたくなったので、まずは「エンダーのゲーム」の長編版をポチっと。他の海外SFもまた情報収拾して手を出してみたくなりました。とはいえ、積んでる天冥を読んでからで……。 評価 ☆☆☆☆(8) ◆ 時間旅行者の系譜 比類なき翠玉 (ケルスティン・ギア/東京創元社) 【amazon】 ドイツ発のタイムトラベラー達によるラブロマンスの最終巻は、怒涛の展開で面白かったです。2巻目は謎がばらまかれるばかりでスローペースで物足りなかったんですが、この最終巻では次々と伏線回収が行われ、新たなクロノグラフを利用したタイムトラベルで幅も広がって、息つけない展開でした。どこにクロノグラフ隠したのかをスルーする描写には、グウェン視点なのにずるい!と思ったりしましたが(読み落としたのかと読み直しました)、明かされたときはなるほど、と。流れが少しごちゃごちゃしていて爽快感はあまりなかったものの、伯爵の正体も気付かなかったし、ラストのオチにもびっくりでしたし、驚きポイント多かったです。 恋模様も良かったですね。グウェンドリンが恋しか見えない女の子なのが新鮮でした。伯爵の謎や迫り来る危機なんてどうでもいい、それより目の前のキスが大事という姿勢を貫くのが、とてもティーンエージャーの少女らしくて面白かったです。突然はじまるイチャイチャ空間甘かった。時々はイラッとしたりもどかしくなったりもしましたけどね。 今まではひどいと感じていたギデオンがこの巻は割とかわいそうだったり。グウェンに対するアプローチを完全にしくじってるので仕方ないですが。 脇役も充実してました、お気に入りはレスリー。グウェンと対極の好奇心と友達思いの行動力が素敵でした。彼女のロマンスももう少し見たかった。ラファエルもいい男性に見えましたし。立場入れ替わりでレスリー主役で見たかった気持ちもありますけど、レスリーみたいな子は脇役の方が輝くこと多いから、この形でよかったかも。 あとはシャーロット。嫌な子ではありましたが、行き当たりばったり気味なグウェンに全部かっさらわれたと思うと同情の余地大きいよなあと、謎解き放り投げそうなグウェンの姿や最後のパーティでのシャーロットの姿見て感じました。 色々と想像力を働かせたくなる終わり方で、二次創作が増えるのも納得。グウェンとギデオンはずっと幸せでいられるかが気になりました(グウェンの早とちり癇癪や、ギデオンが何年まともに生きられるか、などなど)。まあレスリーたち生きてる間は大丈夫でしょうね。 評価 ☆☆☆★(7) |