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 5月8日(日)


<最近読んだ本>


盤上の夜 (宮内 悠介/創元SF文庫)amazon
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何これ凄い。

囲碁や将棋などのボードゲームを題材にした短編集と聞いて、碁打ちでありボードゲーマーでもある自分としてはいつか読まねばと思っていた、日本SF大賞受賞作。ようやく手をつけてみたところ、どの短編も、極限の戦いを繰り広げるプレイヤーたちの生き様に唸らされ、さらには「ゲームとは何か?」などといったテーマにまで踏み込んでいく物語にまた唸らされ、と衝撃を受ける物語でした。

もう最初の1篇でこれ凄いと分かりましたからね。四肢を失った囲碁棋士の少女である由宇が主役というのにまずオッとなり、盤の状況を肉体感覚としてとらえて対局を重ねていく壮絶さにも心を動かされ。手を打つ代行者である相田と由宇、閉じた2人の関係性も気になって、とグイグイ惹きつけられました。
極限に至るにつれて、途中から観念的な描写が増えてくるんですが、そこで形作られる世界観がまた圧巻。この1篇目では、「どんなに孤独でも、2人の棋士は氷壁で出会う」というイメージの美しさがとても印象的でした。

続くチェッカー、麻雀の物語も、極限下での対局者たちの在り方、そこから広がる世界どちらも凄かった。チェッカーのお話などはかなりの部分が史実で、史実自体の面白さもあるんですけど、そこにこの物語ならではの見せ方が加わって面白さが増していたと思います。麻雀の話は、二転三転していく駆け引きがスリリングで、辿り着いた結末に驚愕。この麻雀の短編と、囲碁の短編が特に気に入りました。

後半は古代に舞台が遡る短編があったりして、よりSF色が強く。解説読んでも理解しきれない部分もありましたが、それでも凄さ・面白さは伝わってきました。最後にもう一度最初の2人に戻って、やっぱり壮絶な物語。原爆の局、碁打ちなのに知りませんでした。
デビュー作での受賞も納得の物語でした。他の作品は合うか分かりませんが、調べてみようと思います。

評価 ☆☆☆☆(8)



チョコレート・ダンディ 可愛い恋人にはご用心 (我鳥 彩子/コバルト文庫)amazon
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我鳥さんらしい、楽しく甘い物語でした!

「あしながおじさん」をモチーフにした、孤児出身のアデルと金持ち青年オスカーのラブコメディ。本誌で1話目を読んで楽しかったので書籍刊行は嬉しかったし、2話目以降も楽しい作品でした。

アデルの気を惹こうとして転がり落ちるように残念化していくオスカーが、いかにも我鳥さん作品らしいヒーローでまず面白い。ナスに嫉妬するくだりとか笑えます、実にひどい。でも時々はヒーローらしいところもあって、前作の残念陛下よりは格好良かったかな。

一方のアデルは、孤児院出身で基本的にはしっかりしているんですが、時々感性が変わっていてクスリと笑わせてくれる愉快なところもあって、オスカーとお似合いなカップルだなと感じました。ちゃんとオスカーに恋をしていて、恋を知っていく過程が可愛らしかったですし。

女王陛下やじいやといった脇役勢も、いい味出していました。女王陛下は「ですよねー」というお約束具合でしたが、じいやは伏兵。おまけ短編のじいや酷い。残念オスカーを形成した1割ぐらいはこのじいやが原因ですね……。

あと忘れてはいけないこの作品の魅力は、表紙デザイン。2人の距離感や散りばめられたチョコレートが綺麗で、目を引く表紙ですよね。デザインがスタイリッシュで目を引く作品が、今年になってから増えた気がします。2巻表紙はどうくるでしょうか。

評価 ☆☆☆☆(8)