6月27日(木) |
<最近読んだ本> ◆ 星を撃ち落とす (友桐 夏/ミステリ・フロンティア) 【amazon】 以前コバルトで書かれていた友桐さんの、一般書進出作品。5年ぶりに本を出す、しかも一般で、ということで発表当時は随分盛り上がっていました。 見えるものが二転三転するのが面白く、以前コバルトで作品読んだときよりもずっと楽しめました。自分の好みが変わったのか、年月経つ間に上手くなったのか。両方かもしれません。 お話の作りは、思春期の少女たちが嘘を吐いたり傷ついたりしながら、事件の過程で成長していくお話。「現代の少女小説+ミステリ」という枠組みはコバルトのときと一緒ですね。で、この作品で一番面白かったポイントが、事件を解き明かしていく中の二転三転。最初に事件について一面からの見方が示されて、それが結構納得感あるんですが、ある時を機にそれがグルリと裏返される。この裏返し方が鮮やかで、しかも一度だけじゃないっていうのが見事でした。特に菜歩の真相らしきものが見えるところが鮮やか(内容はえぐいすれ違いですけども)。 二転三転の中での少女たちの青春物としても良かったです。最初はいじめがメインの青春で苦手かもと思ったりもしましたが、それは最初だけで、信じていたものに裏切られる気持ちや、考え方がさっぱり違う少女たちのぶつかり合いがメイン。あまりドロドロしていないのが個人的に好みでした。ひょんとしたことでずっと抱いていた悩みが解決するあたりは思春期らしいなと思ったり。道を見つけたように見える最後の皆の姿は明るくて、ここだけ見ると綺麗に落としたなと感じました。 そう、ここだけ見ると、なんです。この作品の恐ろしいのが、少女たちには見えていない裏側が残っているところ。メインキャラクターがいないところで推測された殺人事件の真相は、とても真っ当な少女たちには聞かせられないどぎついもので。花瓶じゃなくて首が、っていうのはあまりにも残虐すぎる。真実は分からないですけど、そりゃトラウマにもなります。 そして最後の事故。ここでまたグルリと裏返されるとは。裏返った後だと、薙だけじゃなく、真理の作中での行動も疑わしく見えてきます。これを美雲に気づかせて、しかも目をつぶらせるのが何ともいえない後味。見ようとしたものだけが世界ってことでしょうか。この物語は菜歩視点もないですから、真相は何も明かされていなくて、そのあたり徹底してますね。この終わり方は嫌いではないですけど、怖い物語でした。 今のところ次回作の予定は出ていないですが、出れば読みます。過去作も時間あればまた読みたい。 評価 ☆☆☆☆(8) ◆ 残月 みをつくし料理帖 (高田 郁/ハルキ文庫) 【amazon】 多くの人が待ちわびていたであろう「みをつくし」最新刊は、久々に安心して読める巻でした。雲の切れ間の光が見えてきました。 まず安心したのが、澪が必要以上に気に病まなかったこと。もちろん悲しみには浸っていましたけれど、変に自分を責めたりしなくてよかった。野江ちゃん無事だったからですね。その野江ちゃんとはついに対面、少しずつ少しずつ近づいてますね。身請けは摂津屋が一つの鍵を握りそう? 澪以外にも色んな人に変化があった巻でしたが、その中でもご寮さんが幸せの道を辿っていて良かった良かった。柳吾との関係は全然意識してなかったですけど、落ち着いていてお似合いだと思います。 目を見張ったのは、ふきの成長。料理を一丁前にする姿には微笑ましさを感じると同時に、年月が作中でそれだけ経過したんだなあとしみじみ。又次の死による変化が立場的にも気持ち的にも大きかったんでしょうね。 色々な人が出てくるシリーズですけども、一番好きな登場人物は清右衛門先生で揺るがない、と改めて思わせてくれた巻でもありました。いつでもブレない呵呵とした姿とツンデレな態度は心和ませてくれます。登龍楼との勝負を薦めてくる姿がかっこいい。 登龍楼は本格的にラスボスになりそうで、健坊がかなりの心配材料ですが、寒中の麦の春が来る日を祈って次巻へ。 評価 ☆☆☆☆(8) |
6月23日(日) |
<最近読んだ本> ◆ グルア監獄 蒼穹に響く銃声と終焉の月 (九条 菜月/C★NOVELSファンタジア) 【amazon】 先月のCノベの新刊。おむらさんの感想を読んで気になったので手に取りました。 釣られてよかった面白かった! 巨額の軍の予算が監獄島に流れ込んでいる謎を調査するために、スパイの青年(見かけは少年)が看守として島に潜入する話。このあらすじだけだとシリアスな話に見えますが、少なくとも今の段階だと結構コミカルで楽しいです。 そのコミカルさを作り出しているのが個性豊かなキャラクターたち。底知れなさしか感じられない所長をはじめ、出てくる軍人看守たちが老若男女問わずどのキャラもたっていました。女の子キャラもいるのが個人的に高ポイント。主人公は苦労人体質なんですけども結構いい性格していて、面倒をかけられつつもうまくスルーしていて、テンポいいやりとりが面白かったです。 話のノリは転校してきた学園物に近いものを感じましたが、囚人との関係も描かれたりと、一味違った味わいがありました。 そんなメンバーたちによる新人歓迎の模擬訓練がこの巻のメインイベント、これがまた面白かった。戦力的には圧倒的劣勢の中、知恵と適材適所で切り抜ける、そういう話が好みな人にはお勧めです。主人公の強さがちょうどいい感じでスリリング。扉ぶん回しヒロインも斬新で痛快でした。 監獄の闇は思ったより深そうということだけ分かって次巻へ。あとがきによると2巻では議員や軍人のおじ様方が登場ということで、陰謀劇になりそう。今回のキャラとどう絡むかが楽しみです。今回顔見せだけだった主人公の上官の妹が苛烈な性格みたいなので、その子の出番にも期待。恋愛要素はこの先あるか微妙な感じですが、このシリーズは恋愛なくても十分楽しめそうです。 評価 ☆☆☆☆(8) ◆ 贅沢な身の上 ときめきは空に煌く星の如く! (我鳥 彩子/コバルト文庫) 【amazon】 前巻最後で陛下の出生の秘密が明かされて、「これは次の巻ではシリアス展開の中で進展が!」と思ってました。そんな私は愚か者でございました。 いやいや、シリアス展開にならないのはいいとして、あの引きの後にこんなネタ展開もってくるなんて誰も思わないでしょう。なんで前宰相がアイドルプロデューサーで、陛下がアイドル特訓して、1冊まるごとアイドルネタなんですか! もう意味が分からないですよ……。 でも、そんなネタ路線でも、いやネタ路線なほど楽しいのがこのシリーズ。色々な人が語る陛下の血筋の残念さが笑えました。この残念スイッチひどすぎる、スイッチを押させまいとする人たちの努力の空回りが楽しい。菫花には同情できますけども。 そして何故かこの環境下で進展している花蓮の気持ち。たかがポッと出のアイドルの押しで、陛下意識することになるとは。いや前巻あたりから予兆はありましたけどね。正統派ライバルだったはずの唯翔じゃ全然進展なかったのに何故。花蓮らしいといえばらしいですけど。そして唯翔は新キャラに押されてどんどんネタ要員に。どうしてこうなった……。 あとは鳴々争奪戦にまさかのライバルが登場。でもどう考えても勝てないので早めに諦めたほうがいいと思います。 引きからすると次もネタ全開でしょうが、花蓮が憮然としているあたり、やっぱり進展してますね。紫夕さんの三角関係がどうなっていくかが次の楽しみ。 評価 ☆☆☆★(7) |
6月20日(木) |
<最近読んだ本> ◆ 夏天の虹 みをつくし料理帖 (高田 郁/ハルキ文庫) 【amazon】 つい先日最新刊が出たみをつくしシリーズの、最新刊の1つ前の巻。これがやばいと聞いていたので、ずっと積んでいたのでした。 想像以上の過酷でした、積んどいてよかった! 心星ひとつ、夏天の虹と2巻連続でこんな辛い出来事連発するなんて、そりゃ皆叫びますよ。雲外蒼天の雲どんだけ厚いんですか。 今巻辛かったのが、淡い希望が摘み取られるシーン。希望は心の支えになるけれど、希望が裏切られるほど辛いこともそうはない。美緒のことがちょっと恨めしくなります。実際のところは小松原さまのこと直接確認したわけではないので、まだ希望はあるのかもしれませんが、残った皆が幸せになれるようなエンドは今のところ想像できないです。だからこそ「新星ひとつ」の澪の悲壮な決意が胸に響くわけで。 で、それ以上に辛かったのがラストです。澪に対する直接的な過酷にばかり頭がいっていたらこれですよ。確かに振り返ると又次にやりとげた感ありますし、サブタイトルでフラグたってる気がしますけど、これは頭になかった。誰にとっても辛い。澪が又次を拘束してなかったら野江ちゃんがこんなことにはならなかった、って澪が自分責める展開とか待ってそうです。辛い。 澪関連以外でも少しずつ動きがあって、辛いこと多い中でふきと健坊の関係が癒し。一方、源斎先生関連だけはちょっと理解できてないところが。いや感情は理解できたんですけど、なんで美緒をきっぱり突き放したのがこのタイミングだったんでしょう? その後の出番も中途半端な気が。何か見落としてるかなあ。 で、すぐに続きを読める幸せ。少しだけ開けて来週読む予定です。 評価 ☆☆☆★(7) ◆ 死にたがり姫事件譚 黒猫に捧げる愛の話 (宮野 美嘉/ルルル文庫) 【amazon】 「幽霊伯爵の花嫁」でサアラを生み出した宮野さんの新シリーズは、今回も突き抜けた女の子が主人公でした。「死にたがり姫」のユキハはただ壊れているだけなんですけど、自然な壊れ方のまま1巻まるまる過ごすのがすごい。ヒーローに「猫になれ」と言われてナチュラルに受け入れたり、意味不明な思考回路が、見ていて面白かったです。無敵を感じさせるオーラがあった分だけサアラの方が突き抜けていると個人的には思いますが、ユキハもなかなかでした。 で、そんなユキハに絡まれたジンの変遷が、個人的に面白かったポイント。かなり頑なだった人嫌いの少年のガードが、ユキハの凶悪なしつこさに突き崩されていく様子と、受け入れてきた後にユキハの言動に振り回される不安定な感情が良いです。「だったらかんたんに浮気するな!」とか楽しい。狂った少女は、相手がいると狂いっぷりが映えますね。 ストーリーの作りは幽霊伯爵と同じようにミステリ要素混じり。エピローグまで気づかなかった謎などもあったりして、ちょうどいい難易度でした。この人の書くミステリ要素好きです。 2人の関係は一応まとまっているし、ユキハの背景はすでにかなり描かれているので、続き出るかは微妙そう。おつきのルカの、ユキハに対する執着の強さの原因が気になるので、出るといいです。 評価 ☆☆☆(6) |
6月16日(日) |
思いでがえしコンプして感想も一通り書き終わりました。いいファンディスクでした。初プレイから3年あまり経ちますが、まだ恋戦記熱は続きます。 <最近読んだ本> ◆ あなたが主役! 心理テストアドベンチャー ダークフェアリーの洞窟 (小林 奨/あさ出版) 【amazon】 著者の方から献本いただきました、ありがとうございます。 RPG風ファンタジーに心理テストを融合させた、斬新な作品。一体どういう融合になっているのか興味もったのと、主人公が女の子ということで読書志向にもマッチしたため、献本依頼をお受けしました。 ファンタジーな質問と回答が変わっていて面白かったです。 冒険者駆け出しの主人公が、あるパーティの一員となって初冒険をするお話、に心理テストを融合した作品。どう心理テストが融合されているかというと、「主人公=あなた」という形でした。「あなたはこうした」「あなたならどうする?」と呼びかける文体で、時々心理テストの選択肢と回答が挟まれていきます。読み心地としてはゲームブックに近い印象を受けました、分岐の代わりに心理テストの回答があるゲームブック。 で、肝となる心理テスト部分は結構楽しめました。出てくる心理テストは「何色のマントを着ていた?」というオーソドックスなものから、「どんな魔法を使った?」というファンタジー寄りなものまで様々。回答は一応女性向けに書かれてますが、特に気にせず男女問わず読めるんじゃないかなと。 オーソドックスな質問は、テストが思ったよりも当たってました。4択の中で二番目以内に当てはまるものを選ぶことが大半でした。心理テストの類は普段全く読まないのですけれど、ある程度は確立されたものがあるのかな? 一方、ファンタジー寄りの質問は、「この場面ならこの魔法だよなあ」というようなファンタジー世界に対する考え方が頭から離れなくて、あまり心理テストにならなかったです。ファンタジー慣れすぎだと駄目かもしれません。でも、「こういう答えをしたらこういう性格だと見なすのかー」といったような回答と性格の関係を楽しめました。 あと少女小説読み的に、「落としてもらった泥は顔のどこについていた?」は頬一択でした。心理テストをガン無視でときめき重視でした。でも頬なんて選択肢はありませんでした。残念。 物語の方は、冒険の第一歩で終わってしまうので、単体ではちょっと物足りず。まあ心理テスト込みでページ数そんなに多くないので仕方ないですね。文章は読みやすかったですし、心理テストがそんな浮くこともなく溶けこんでいました。ヒーローはラックスよりクルトの方が好みです。 ただ、たまに明らかな現代ワードが出てくるのが少し気になりました。心理テストと融合されている時点で、現代ワードが世界観をそんなぶち壊すわけではないんですが、ファンタジーなのが売りの一つなのでもったいないなと。 全体的にはあくまで心理テストありきですが、2種類がうまく混じっていて面白い試みだと感じました。心理テストの間口を広げるのには、いいのではないでしょうか。 評価 ☆☆☆(6) |