Babel II 剣の王と崩れゆく言葉 / 古宮九時

2016年11月20日(日)

BabelII ‐剣の王と崩れゆく言葉‐ (電撃文庫) Babel II 剣の王と崩れゆく言葉
古宮九時
電撃文庫
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皆さん買いましょう読みましょう!!(ダイマ)

Web小説で大好きなシリーズの書籍化、第2巻。タイトルの通り、言語が一つのテーマなのですが、舞台を魔法大国ファルサスに移したこの巻は、その言語の謎にズバッと踏み込むのが、他の異世界物にはないアプローチで、初読時は相当に衝撃的でした。また、異質を排除しようとする王に対し、言葉と意志だけで対峙する雫は書籍になっても健在で、その姿が眩しくて尊くて大好きです。そうした真面目さだけでなく、打てば響くコミカルなやりとりに笑えるシーンも多くて、本当に面白いシリーズだと再確認。

次巻以降どうなるかは売上次第との悲報が届いてしまいましたが、ここで終わってしまうのはあまりにも勿体無い……! ここから先、もっともっとワクワクさせられるし、胸打たれるんです。残虐な姫とのガチンコ勝負を読みたいんです、キングオブ不憫な魔法士を見たいんです、雫の旅路を最後まで見届けたいんです。皆さん買いましょう読みましょう!(繰り返しダイレクトマーケティング)

以下はまず、この2巻までの内容ネタバレ込みでの感想です。

なんといっても前半のハイライトは雫の飛び降りシーン。唐突に異質ゆえの死を突きつけられ、そこで逃げずに対峙する。力をもたない少女は言葉を振るい、人であるために文字通り命を賭ける。どんなに無謀であっても、その姿は自分には尊く映りましたし、その意志が大好きです。

その後の雫の適応力も凄いですよね、死をかけた相手とのコミカルな掛け合い。まあ大体ラルスが原因ですね。ターキスはあんなに漂白されたというのに、このサド王ときたら……。でも、この雫と王様の全力で愉快なやりとりも好きです、負けず嫌いな雫が素敵。

エリクの悔恨は、どう考えても防ぐのは難しかったのに責任を背負い込んでしまっているのがとてもやるせなくて、それだけに雫がその悔恨を跳ね除けてくれて良かったなと。特に、雫が精神魔法で操られる場面、雫の意志とエリクの想いが加筆されていたのがとても良かったです。エリクが救われたのがはっきりと分かりますし、雫を助け守ろうという意志が格好いい。1巻といい、エリクのヒーロー度がアップしてますねやはり。

生得言語は、初読の時はかなり衝撃でした。そういう世界なのか! という驚きと、たまにある会話の違和感はこれか!! との合わせ技。さらには雫の言葉の問題まで踏み込む。異世界物にあるお約束・常識を根底から覆されるのにはゾクゾクしました。「崩れゆく言葉」というサブタイトルがまたいいですね。そこから一気に最後まで、いい引きです。続きを!

ここからはWebでのシリーズネタバレもありの感想。シリーズ既読者以外はご注意ください。ブログ化したので、初めて折りたたみが使えます……!

(さらに…)

自負と偏見 / ジェイン・オースティン

2016年11月11日(金)

自負と偏見自負と偏見
ジェイン・オースティン
新潮文庫
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さすがの名作でした!

結構前にお勧めいただいていた、1800年頃のイギリス田舎の階級社会が舞台の古典名作。「高慢と偏見とゾンビ」が上映されていて、読むならこの機だと思って手にとりました。

読み始めてまず気づいたのが、軽快な読み心地。邦訳小説とは思えないくらいの読みやすい文章に加え、登場人物たちの個性が非常に豊か。俗っぽい登場人物も多くて、最初はこんな人達も出てくるのかと引っかかったりもしたんですけど、皆ブレることなく活き活きとした姿はどこか喜劇的で、すぐに気にならなくなり楽しく読めました。ひたすらズレた喋りのコリンズ、現実的にしたたかな道を選んだシャーロットあたりが特に印象に残りました。

そしてメインカップルのエリザベスとダーシーです。ダーシーを嫌うエリザベス、エリザベスに惹かれだすダーシー、という構図を見て、「このお話好きになる」と確信しました。特にエリザベスに会うたびにとことん嫌われていく不器用なダーシーには肩入れしたくなって、エリザベスがいつ心を変えるのかをドキドキしながら読んでました。

一番の見所であろう、告白からエリザベスの認識がひっくり返る場面は鮮烈。そりゃとことん嫌ってた相手が実は素晴らしい人だったというのは、すぐには受け止められませんよね。時間をかけて心が揺れ動き、自負と偏見が羞恥と尊敬に変わっていく様子はリアリティあって、こちらの心も揺さぶられました。
それにしても、あんな振られ方を一度しても愛を翻すことなく、それどころかますます男前になるダーシー。ちょっと格好良すぎでしょう。この格好良さ、これまで読んだ物語全ての中でもかなり上位だと思います。

リディアがまさかの相手と駆け落ちしたのには驚きましたが、ダーシーがさらに格好良い姿を重ねていき、エリザベスが恋していくのにニヤニヤできて、最後まで面白かったです。再度の告白が受け入れられたときはダーシーおめでとう! と言いたくなりました。いやー、王道って素晴らしいですね。近年の少女小説では捻りを効かせて、ここで再度断るような鬼ヒロインがいたりしますからね(それはそれで愉快で大好きですけど)。

時代を越えて語り継がれる作品はそれだけのものがあるのだと改めて感じました。なおゾンビ映画は見る前に上映が終了しました、ちょっと遅かった……。DVD化されたら見たいです。いやでも、ゾンビよりは本家を先に見ましょうか。

時計館の殺人<新装改訂版>(上)(下) / 綾辻行人

2016年11月5日(土)

時計館の殺人〈新装改訂版〉(上) 「館」シリーズ (講談社文庫) 時計館の殺人〈新装改訂版〉(下) 「館」シリーズ (講談社文庫) 時計館の殺人<新装改訂版>(上)(下)
綾辻行人
講談社文庫
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緻密な伏線からの大胆な結末! 面白かった!

館シリーズ第5巻にしてシリーズ一という評判も聞いていた本作。まあどうせ自分には仕掛け分からないだろうと達観し、驚く準備をして読み始めました。

前半部は、閉鎖された館が舞台という王道的なミステリの展開。小手調べの降霊会トリックのあたりは仕掛けも分かりやすくのほほんと読んでられましたが、どんどんと人が殺されていく展開がなかなかに怖い。異様な空間の中で、登場人物たちが精神的にやられていくのが分かり、また仮面の殺人者も不気味で、上巻読了あたりは雰囲気たっぷり。夜中に読まなくて良かったと思います。

で、読み進めていくにつれて由季弥が怪しく見えてくるも、怪しすぎて他に犯人いそうだないう予想に。登場人物たちも同じ考えに至っているあたり、作者の手の内ですね。で、時系列表が並べられて、「あ、この夜中に電話してるのアリバイ作りだ!」と気づきました(遅い)。夜中の電話とかあからさまに怪しいですよね……。でも気づいたものの、この時点では「数時間ずらすと合うのかなこれ」とか考えてました。完璧に術中ですはい。

こんな惨状だったので、犯人ははいそうですねとなりましたが、仕掛け、伏線、動機と明らかになっていくにつれて驚愕に翻弄されました。時計を使った壮大な舞台装置にはびっくりしましたし、何よりそこに至った父親の動機が凄かった。そういうことか! と膝を叩きました。なんという歪んだ執念。そして歪んでいたとはいえ、その舞台が16歳を迎えられずに崩れ去ったのはやるせなかったです。間違っていたのが正されたといえばそれまででも、あと数日……。そこから負の連鎖で本編の大量殺人に至ったのだと思うと、やはりやるせない。

それにしても、本当に伏線が綺麗に張り巡らされていました。カップ麺の件など、言われて「あああ!」と叫びました。睡眠薬だけじゃ味覚までは異常きたしませんもんね……。真相は、1992年など様々な伏線を結びつければ出せない答えでは決してなく、でも巧妙に各所に伏線ばらまかれていて分かりづらい。見事でした。

最後はお約束のように崩れ去る館。それもただ燃えるだけではなく、物語の流れの中での壮絶な崩壊は、美しさも感じさせられました。ミステリと物語が綺麗に噛み合っていて、館シリーズ一と呼ばれるだけはありました。自分の中でも今作が一番の評価。面白かったです。