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(書籍感想)忘却聖女 / 守野伊音

2021年12月30日(木)


 忘却聖女
 守野伊音
 SQEXノベル
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これだけは今年中に感想を、ということで久々に更新。「狼領主のお嬢様」などを書かれている守野さんの最新書籍化作品は、ほとんど全ての人に存在が忘れられた聖女による、居場所を取り戻すための戦いの物語。

守野さんの作品はどれも感情を揺さぶってくるエモさたっぷりなんですが、その中でもこの忘却聖女は群を抜いたお話。主人公のマリヴェルはスラム育ちで、聖女として神殿に引き取られた後に愛情もって育てられてきた過去をもつ女の子。そんな子が、神殿の皆に忘れられたら辛いに決まっているわけです。特に、父のように思っていた神官長から他人として扱われる際の感情描写は読むだけでもしんどい。

ですが、単に重いだけではないのが守野さん節。忘れられる前のマリヴェルは、脱走や叱られは日常茶飯事の問題児。そんなだけあって、マリヴェルの視点で進む物語は、設定の重さとは裏腹に軽快な語り口。唯一マリヴェルのことを覚えていた神官エーレに事ある毎に叱られる姿は笑って読めます。

とはいえ、本質はしんどいので、笑っている先に落とし穴があったりするわけで、このコミカルとシリアスのアップダウンで読者を見事に翻弄してくれるのがこの物語の魅力。起伏が激しい物語をジェットコースターのようと例えたりしますが、このお話は感情のジェットコースター。笑っていたら一歩先にグサッと胸を刺してくる文章が差し込まれていたりと、振り回される感情がしんどいんですが、その分だけエモさも増幅されているので読み進めたくなるんです。また、「なぜ忘れられたのか?」の謎を追っていくにつれ、先代聖女や王宮にかかわる更なる謎が現れるなどサスペンスとしても面白く、どんな真相が提示されるのか先が気になります。

Web版ではかなり先まで物語が進んでいるんですが、最新話付近の展開はこの1巻を遥かに上回るエモさで、1話更新されるたびに情緒がかき乱されてます。辛いけれど読みたい、の最たる物語で、なろうで今一番更新が待ち遠しい小説。この感情を分かち合える人が是非増えてほしいので、1巻を読んでWeb版に足を踏み込む方をお待ちしております。

幽霊伯爵の花嫁 恋する娘と真夏の夜の悪夢 / 宮野美嘉

2016年10月1日(土)

幽霊伯爵の花嫁8 ~恋する娘と真夏の夜の悪夢~ (ルルル文庫)幽霊伯爵の花嫁 恋する娘と真夏の夜の悪夢
宮野美嘉
ルルル文庫
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変わらないサアラの姿が見れて楽しかったです。

まさかの幽霊伯爵シリーズ完全新刊。レディマリアーヌと一緒に発表されたとき、「これ功労者に最後のご祝儀的なやつでは……」とビクビクしていたら、案の定のルルル文庫終了のお知らせ。しばらく前から危ないかもとは思ってましたが……。作家さん方が無事に他に移れますように。

それはさておいて本の感想を。間が空いても、サアラのサアラらしさ、信念や言動が当時のままで、懐かしい気持ちになりました。諦めずに、なせることは全てやるという強さを当たり前のように体現しているサアラの姿は、やっぱり格好いいし見ていて気持ちいいです。ドイルをスパっと切るのが痛快。ジェイク様への愛情表現も、普通じゃない言動なのにしっかり甘いのが楽しい。

ジェイク様はこんな面倒くさい人だったっけ? と最初思いましたが、そういえば元々こうだったような。何度かグーパンしたくなりました。サアラは大丈夫でしたが、エリオスはよく頑張ってたと思います……。多分今後は少しはマシにはなるんでしょう、少しは。他のキャラクターだとアシェリーゼ様が見れたのも嬉しかったです、シリーズ一番のかわいさはそのままでしたね。

一捻り効かせたミステリ要素もやっぱりありました。綺麗に騙された後に「そうそう、このシリーズはこういう捻りあったよね!」と思い出してました。もう少し早く思い出していれば騙されなかったかも? いや騙されたかな。悲しい結末でしたが、いい捻りでした。

ルルルではこれで最後かもしれませんが、どこかで次回作が見れますように。