月別アーカイブ: 2020年12月

2020年読書まとめ(商業小説)

2020年12月29日(火)

こちらは商業小説編になります、オンライン小説編はこちら。全然読めてないなと思いつつ、数えたら50冊程度は読んでました。500冊読んでいたのは遠い昔。

女王の化粧師2 (千 花鶏/ビーズログ文庫)

はい、今年も女王推しからです。2巻発売して本当に良かった!! ビーズログさんありがとう!! 1巻だけだとこの物語の魅力の多くが伝わらずに終わってしまうので、秘密の1つにも踏み込む2巻まで進んだのは嬉しい。初めて読んだときは好みの設定に狂喜したのを覚えています。ここのネタバレをどうするかは推す際に悩むんですけれど、驚きを奪いたくないので結局伏せてます。2巻ではヒースの魅力が1巻より前面に出てきたのもポイント、最後の名前呼びの繰り返しが切なくて素敵。2巻の詳しい感想はこちらに。

でもまだ足りません。自分を含めて多くの読者を女王沼に引きこんできたであろう序幕終わりまで、ここまできたら何とか刊行してほしい。序幕終わりに辿り着ければ天下だって取れると、書籍化前からずっと思ってます。序幕終わりまでに2冊分の文量ありますが、電子版ならまとめて1冊のウルトラCとかできませんかね? 鈍器も刊行している電撃とかならともかく、ビーズログだと若干厳しそうですが、そこを何卒どうにか。

ところで、

ちょっとBookWalkerのギフトが1,2巻ともに余っているんですが、まだ購入されてなくて興味ある方がいたらご連絡ください。無駄になるのは勿体ないのでお気軽に。広がれ読者!


Babel III 鳥籠より出ずる妖姫 (古宮 九時/電撃の新文芸)

3巻が発売されて感無量です。Babelはこのキスク編とラストがとても好きで、それだけに文庫版2巻打ち切りは本当に悲しい事件でしたので……。UMとBabelを刊行してくれただけで、電撃の新文芸には感謝しかありません。

キスク編を読んで、言葉と意志だけで道を開いていく雫の姿に改めて圧倒されます。もう最初の試験からして強烈で、刻々と迫るタイムリミットへの恐怖や突き落とされる絶望を味わい打ちのめされながらも、そこで折れなかった雫が格好良すぎる。スリリングで見所たくさんで、最初の章だけでも割とお腹いっぱいになったくらい。

で、それが序の口なんだから恐ろしいですよね。オルティアから武器をつけられても言葉を止めない雫にゾクゾクさせられます。1巻の頃に比べて言葉に経験が伴ってきているし、オルティアの心を動かして、また雫がオルティアに情を移していくのがよく分かる。そして、真に主従になってからの交わす言葉の一言一言に強固な信頼を感じるのが最高にすぎる。票決の最後とか痺れますよね。そう、この姫と雫を書籍で読みたかった。

書籍化にあたり、もう少しマイルドになるかもとも思っていたんですけれど(対ジレドとか)、容赦なかったですねさすが。この辺りは、そこまでしないでもと思う一方、えぐさがあってこそ雫の頑なさが映えるとも思うので複雑です。そういえばウィレットを活かした対ジレド作戦、シリアスの中のほんのり痛快さが気に入ってます。ウィレットは癒し。

あとキスク編といえばニケですよ。Babelの恋愛面については割と状況状況で応援対象が揺れるんですが、3巻のニケの不器用な思いやりはとても良いですよね。魔法薬作ってくれるシーンとか、お前それ優しさ以外の何が詰まってるんだと。もう少し素直になってもいいと思うんですが、素直なニケはニケでないので難しい。でも、敵に塩送らなくてもいいと思うんですが!! 気持ちは納得いくんですけれど、そのくせ最後にああいうことしますからね。お前そういうところだぞ。

Web版で一番大好きなのが最終巻部分なんですよね。書籍ではどういう形で結末を迎えるんでしょうか。


ダイブ・イントゥ・ゲームズ2  電子の海で出会った仲間たち (佐嘉 二一/レジェンドノベルス)

今年の書籍化組の中でもお気に入りの一作、様々なゲームを楽しみながら、ボッチ主人公が時々友人との交流を深めていく青春ストーリー。

とにかく遊んでいるゲームがどれも楽しそうなのが魅力な作品。2巻では、相棒と一緒に空を駆けて商売する「セレスティアル・ライン」編が書籍化に伴い分量縮小されたのにはしょんぼり。登場ゲームの中でもお気に入りの一作だったので。でもその分、ヒーローやヴィランになりきって闘う「Destiny Blood」編が加筆でより面白くなってました。最後の「インフィニティ・レムナント」編もソロでの魅力、仲間と遊ぶ際の魅力、どちらも描いているのが良き。他ゲームでの繋がりによる思わぬ邂逅にもにんまりします。

なろうの連載の方も楽しんでます、青春チャンネル編の気の置けないワイワイしたやりとり大好き。


ツンデレ悪役令嬢リーゼロッテと実況の遠藤くんと解説の小林さん (恵ノ島すず/カドカワBOOKS)

去年の作品ですが、読んだのが今年だったので。なろう版は少しだけ読んでピンとこずに止まったんですが、評判を聞き書籍を読んだら素敵なラブコメでした。

ツンデレ悲恋悪役令嬢を実況解説で救うというアイデアが良いというのもあるんですが、それより何よりツンデレなリーゼロッテのジーク一直線な恋心がかわいい。そして、そのかわいさが実況解説によってジークにも読者にも筒抜けで、リーゼロッテの一挙一動にニヤニヤできる。もうこれだけでこの物語の成功は約束されたようなもの。また、リーゼロッテとジークを幸せにしたい! という実況解説のモチベーションにも全力で同意できて、読み進めるのが楽しい。小林さんが読者の代わりに萌え転がってくれるので、同意の意味でいいねボタンを押したい。なろう版を何故途中で読むのやめてしまったのか、過去の自分が謎です。

メイン以外の2組のカップルもそれぞれかわいかったですね、恋した脳筋馬鹿ほど恐ろしいものはそうそうない、とバルの愛の言葉ラッシュで分かりました。後半の展開は、小林さん同様に拍子抜けしちゃう面もありましたけれど、思いが通じ合ったリーゼロッテが大変可愛かったので、それだけで満足でした。


エリスの聖杯3 (常磐 くじら/GAノベル)

祝完結。ちゃんと最終巻まで刊行されて良かったです、ラストシーンがあってこその本作だと思うので。

国家を揺るがす陰謀に迫るサスペンスでもありましたが、それ以上に、お人好しで頑固なコニーを主役とした少女小説だよなあと思うのです。無茶な行動力を発揮したりして人を惹きつけ、不器用な人に恋をして時には引っ叩いて気持ちを伝えて、さらには唯我独尊なスカーレットの心も溶かして。これまでのコニーの行動が活きてくる終盤の展開が気持ちいい。終盤の挿絵つきでのコニーとスカーレットのシーンは、どれも素晴らしいの一言でした。かわいくて行動力ある主人公は良いですね。

書籍版についた一言キャラ紹介の身も蓋もなさも笑えて楽しかったです、コニーの欄、半分くらいはひどい。


筺底のエルピス (オキシ タケヒコ/ガガガ文庫)

そういえばエルピスを一気読みしたのが今年でした。感想に書いたとおり、毎巻新たな魅力が追加されて面白さがどんどん増していく化け物SFでした。絶望への叩き落とし方がとんでもない物語ですが、全くそれだけではない濃密な読書体験。7巻が待ち遠しいです。

2020年読書まとめ(オンライン小説)

2020年12月26日(土)

またも更新が空いた状態でのまとめ記事となりました。商業本をろくに読めてないので仕方ないということで……。まずはオンライン小説編、今年気に入った物語を5つほどピックアップ。

死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから (※ただし好感度はゼロ) (六つ花えいこ/小説家になろう)

今連載されているなろう小説の中で一番好きなシリーズ。タイトルで少しでもピンときた未読の少女小説読みの方々は、いますぐ読んで悶えてきてください!

死に戻ったら自分のみが記憶を継承していたオリアナが、死を回避しようとしながら、元恋人のヴィンセントに体当たりでアプローチしていく話。やり直し物は最近なろうでもよく見かけますが、六つ花さんが手掛けたら楽しくて甘くてエモくなるに決まってるんです。まずとにかく恋に生きるオリアナがかわいくて素敵。ヴィンセントの方には記憶がないので、すげない態度をとられるんですけれど、それでも負けずに努力して恋しつづけるオリアナの姿に心奪われます。結構強引なアプローチもとっているんですが、根がいい子なのが地の文からも内面描写からも伝わってくるので嫌な気持ちになりません。感情豊かで等身大で、自分的に割と理想の主人公です。

ヴィンセント側の内面描写もあって、ヴィンセントが次第にオリアナに絆されてていく様子にとてもニヤニヤ、格好かわいい。昔の自分に嫉妬する展開とか美味しいですよね。このお話、学園の日常の色んな場面が相当丁寧に描かれていて、その中で恋心やほのかな甘さが伝わってくるシーンがたくさんあるんです。その積み重ねの上での本命の甘いシーン、破壊力抜群に決まってます。また、主役以外のキャラにも恋愛模様が見られるのも嬉しいポイント、とても良き主従関係もありますよ! ヤナかわいい。

そして、死の秘密に迫るにつれて上昇していくエモさ。今月に入ってからは数日に1回はエモさに殴られて倒れている気がします。この後さらに殴られるのも分かってる、覚悟はできてます(耐えられるとは言っていない)。ネタバレだから何も言えないんですけど、秘密抱えてる某キャラはお手柔らかにお願いします。おそらく物語はもう終盤、皆が幸せな結末を迎えますように。


アルマーク ~北の剣、南の杖~ (やまだのぼる/小説家になろう)

傭兵の息子である少年アルマークが、魔法学院に入学するところから始まる学園青春ストーリー。

アルマークが人として、また魔術師として成長していく中で、クラスメイトや周囲もアルマークの影響を受けていく過程がとても丁寧に描かれていて、なろう小説らしくなく、児童文学っぽさも感じる物語。重い背景を背負っているキャラもいて、時には戦闘での命の危機も経験しながら、周囲との絆を深めていくのにグッときます。

特に「この物語好きだな!」となったのは武術大会編あたりから。クラスメイト1人1人に明確にスポットが当たって、アルマークの影響で皆がどう変わってきたのかが伝わってきて、物語の深みがグンと増しました。中でも最高だったのがモーゲンの描写。鈍臭くて才能がなく、普通の物語ならモブその1の立ち位置になりそうな彼の姿を、物語のはじめから追ってきたからこそ実現できるシーン。独白に思いっきり泣かされました。この物語に心を掴まれたのはこの場面だと思います。   

さらに先に進むと、クラスメイト以外へフォーカスが当たることも増え、かなりの登場人物の数になり、それなのに1人1人の個性が立っていて「誰だっけ?」と混乱することが少ないのが凄い。アインとフィッケの秀才&ひょうきんものコンビとかお気に入りです。そんな物語の、一つの集大成ともいえるのが学園祭編。一章丸々くらいの文量を使って描かれる作中劇は、皆の個性を活かした配役と心理描写が最高に素晴らしくて、ブラボー!とスタンディングオベーションしたくなりました。闇の力との戦いなど、物語の大きな奔流は別にもあるんですが、この学園の物語が大好き。

恋愛要素は、あることにはあるんですが、この関係や感情を「恋」として安易に定義したくはないな、とも思います。憧れ、大切なものを守りたい気持ち、後悔や恐れ、そんな様々な気持ちを内包していて、何よりお互いへの心情が綺麗でまぶしい。甘いシーンでも、甘さに悶えるのではなく、尊さに切なくなります。守られるだけでなく並び立とうとする強い気持ちをもった少女とか、そういうの好きな方には刺さると思います。

すでに400話超えているので新規にとっつきづらい側面はありますが、書籍化はしない意向と以前書かれていたので、是非年末年始のお供に。


プニキとはじめるリーグ運営 ~野球ゲーム?作って運営します~ (ブーブママ/小説家になろう)

タイトルの一発ネタだと最初思ったお話が、300話続き、現実ともクロスオーバーした物語になるとは思いませんでした。

タイトルの通り、ケモノ達が選手となって活躍するバーチャルな野球ゲーム「ケモプロ」を運営していくお話。今の日本の社会で技術だけが少し進んだ世界が舞台で、近未来なゲームであるケモプロが魅力的なのはもちろんのこと、チームのスポンサーとなるオーナーの話や社会への影響などをしっかり描いているのも面白いポイント。

以前から楽しんできたんですが、今年に入って、コロナの影響を明確に物語に反映させてきたのに驚きました。スポーツが開催できない中、バーチャルなプロ野球だからこそ、人々に提供できる観戦。ただのゲームにとどまらず、社会における長く根づく存在を目指して紡がれてきた本作だからこそ、自然に取り入れられたコロナ要素。現実が物語に追いついた、という心情を抱きました。いやほんとケモプロ観戦してみたい。野球好きのなろう読者の方にお勧め。


逆行転生したおじさん、性別も逆転したけどバーチャルYouTuberの親分をめざす!(ブーブママ/小説家になろう)

上のプニキと同著者によるVtuber物。Vtuberは全然興味ない(動画コンテンツは基本苦手)ので見ないんですが、著者繋がりで読んだらハマりました。

タイトルがあらすじそのもので、主人公が推しがたくさん存在する世界を目指して奮闘する本編も楽しく読んだんですが、この物語の真価はむしろバーチャルYouTuberの親分になった後ではないか。そう思うくらい、後日談が充実してるんです。プニキと同様、こちらも少しだけ技術が進んだ日本が舞台で、今の世界だと無理なバーチャルな技術がたくさん。そんな中で、様々なVtuberたちがバーチャルなゲームや企画を楽しんでいる姿が実に楽しそうで、遊んでみたいしリスナーとして見たい。よく色々なアイデア出てくるなあと思います。そして、トップVtuberである主人公がガチVtuberオタクとしてスロットル全開なのも楽しい。自分も楽しむためにドーム借りて推し達のステージまで企画するとか突き抜けすぎて愉快。どのVtuberも好きですが、帝都組お気に入りです。

この作品の影響で、他のVtuber小説にも手を出しています。ちょうどハーメルンでVtuber小説ブームが今年起きているらしく、配信の賑やかな空気や配信者同士の尊い関係、ちょっとしたシリアスなど、お話によって色々なアレンジがあって楽しいです。実際のVtuberは依然として全く見てないんですけどね! 


TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA (佐遊樹/ハーメルン)

「要素詰め込みすぎだろ!」と突っ込みたくなるタイトルからの、さらにぶっ飛んだ内容というとてつもない小説。

ただの悪役令嬢追放物ではなく、神様たちが実況して主人公と意思疎通を交わすというスタイルがまず斬新。そして、頭のネジが1本どころか10本くらい飛んでそうな主人公が無茶苦茶。追放からどんどん遠ざかるのは序の口、脊髄反射で飛び出す突飛な行動の数々や、力こそパワーな脳筋スタイルで読者を混沌に突き落とす。「悪役令嬢は対抗として聖女COした」みたいな、どうしてそうなる的展開がてんこもり(上の例はかわいいレベル)で、神様たちの胃はツッコミで死ぬ。おまけにシリアスも結構頻繁にぶち込んできて、コメディとシリアスの壮絶なギャップが同じ話に同居しているのに脳が混乱します。なんでドシリアスな戦闘とのんきな歌声が隣り合っているんです?? 露骨な鬱展開フラグもあって怖いんですけど?? あと、婚約者のロイや騎士ジークフリートとの乙女ゲー的要素も微妙にあるので、そちらも楽しみにしていたり。

パロディやネットスラングやRTA文化などが盛り盛りなので人を選びますが、その辺りに馴染みある人はきっと楽しめるはず。