(書籍感想)筺底のエルピス シリーズ / オキシタケヒコ

2020年7月6日(月)


筺底のエルピス
オキシタケヒコ
ガガガ文庫
amazon

Twitter上で局地的に大ブームになっている、現代を舞台にした能力者たちのSFバトル小説。オススメを見てかなり前に購入はしていたものの、絶望の描写がなかなか強烈と耳にしており、読むのに体力入りそうなので積んでました。

無茶苦茶面白かったです!! なんでこれ積んでた??? といっても1巻の段階では、「停時フィールド」という変わった設定下での駆け引きが面白いバトル物という印象で、そこまで絶賛というわけでもありませんでした。
その印象がまず変わったのが2巻。表紙から明らかに「上げて落とすぞ」というメッセージが伝わってきて、キラキラとした日々を描いた後にこれでもかと落としてくる。それもただ落とすだけでなく、屈しない登場人物たちを描きながら、意外な落とし穴や大量の伏線なども示されて読み応え抜群。先への期待が高まりました。
さらに3巻では色んな人物の心情の掘り下げにより物語の深みがグンと増して、と巻を経るごとに面白さが足されていって、最新6巻はもう凄かった。バトル、SF、群像劇、青春、全てがギュッと詰まっていて最高でした。どうやったら、これだけの世界の広がりを理詰めで展開できるんでしょう。

絶望の描き方もバランス良くて、半分は「これフラグでしょ!」と予想でき、半分は「えっ!」となる、楽しむのにちょうどいい塩梅。そんな絶望が次から次へと襲いかかるジェットコースター。3巻4巻あたりは、それぞれ1.5冊〜2冊くらいかけても良さそうなところを1冊に詰めていて濃密でした。そんな絶望8割の物語でも、希望や目標があるせいか、読み味はそこまで鬱々としてないんですよね。コメディパートも相当少ないのに凄い。

6巻出てから1年以上新刊出てないのは、書くのにも体力入りそうとはいえ少し心配。この物語を完結まで読めないのは大損失なので、このブームで売れてほしいです。

ここからは最新刊までのネタバレ感想を含みますのでご注意ください。

個人的な好みにもドンピシャでした。ループややり直しの物語、大好きなんですよ。停時フィールドや絶望の設定から、そういう要素もありえるとは思っていたものの、ここまでど真ん中だとは。1周目の目的がデータをとるためだったとか、本格的で無茶苦茶楽しい。6巻でもう一段上のやり直しが出てきたときは、1巻の裏にこんな壮大な設定が広がっていたことに脱帽ですよ。過去編も、世界の宗教や歴史や逸話を丸ごと利用した見せ方が面白すぎるし、他にも見所多すぎて、6巻は傑作でした。
やり直しの物語につきものの「もう1人の自分」の描き方も面白いですよね、一本角という鬼としてタイムパラドックス表現するとは。しかもマーシアンみたいな複数の在り方まで出してくる。自分同士での落ち着いた恋愛トークとか、この叶というキャラクターでないとなかなかできなそう。最後まで2人のままでいるかは分からない(というかこの世界のままで最後までいくかすらも分からない)ですけれど、この先も何かのドラマがありそう。
しかし、時間物好きな人に推したいけれど、そこに触れるとネタバレになってしまうの、オススメしたいときに厄介ですね。昔も今も永遠の課題……

6巻分となると見所多すぎるんですけど、その中でも印象に残っているシーンをいくつかピックアップ。2巻は門部防衛戦の宗佑たちの作戦ですかね、ゲートを利用した必殺、さらにその後の負けないための仕込み、凄い。でもこの時点ではまだ宗佑のことも普通に凄い人程度の認識だったんですよね……

3巻の間白田の死はガツンときました。露骨に死亡フラグたてるから直に死ぬなとは思ったものの、あまりに速攻すぎて。敵の底知れなさが伝わってきましたし、「休息なんてないから」という絶望の叩きつけ方が強烈。あと、こんなシリアスなのに「貴治崎が絶叫をあげたら世界は滅んでいる」なんて一文が入るのが癒し。貴治崎さん、全編通して最強すぎでは。

4巻はゲオルギウス会VSエンプリオがまず熱すぎて。正直かませだと思っていたので、激戦に痺れました。自分の手足切って脱出は常套手段ですけれど、そこからさらに追い詰めるとは。エンプリオの調子に乗った姿と焦り方のギャップの描写も良き。
島が無事に済まないのは想像通りの展開でしたけれど、圭がサクっと亡くなったのにはびっくり。とことん追い詰める容赦のなさを再認識したポイントでした。
あと印象に残っているのがヒルデ。エンブリオにボロボロにされた上に地獄の道を歩んでも笑顔であれる強さが好き、過去への伝言も心にじんわり染みました。6巻でちらっと再登場するサービスも嬉しかった。

5巻は勉強会発足のシーン好きなんです、素人でも本質をついて世界の謎に迫っていってくれそうなワクワク感がときめき。結は前を向ける強さをずっと持ってますけど、ここでの力強さは特にお気に入り。「頭の中が星空」は素敵な表現。

6巻は宗佑関連の全般ですかねえ。覚悟を抱いて長い時を生きてきて、最後に想い人に重ねて手が鈍るの、完璧な描写すぎる。これまでの宗佑の容赦のなさと、過去のエピソードでの人間味でギャップ見せてからのこれはずるい。ひかえに当主を継がせなかった理由に叫びました。
そういえば、プロフェッサーの死亡フラグも見事でしたね。「これは死ぬな」と思ったら、次のページには流れるように死んでました。こうやって時々は予告してくれるの、安心感あります。予備個体まで頭がいってなかったので、すぐに「なるほど」と手を打つことになるんですが。

次で章結で、その後に最終章でしょうか。圭が強化されていても、このままで勝てるビジョンが沸かないんですけど、もう一段くらいスケールアップもありえる? すでに大風呂敷で、宇宙全体か未来かくらいしかないですが……。こういう物語で予想当たったことないので大人しく続きを待ちましょう。

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