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斜陽の国のルスダン / 銅のケトル社(並木陽さん)

2016年10月17日(月)

斜陽の国のルスダン 斜陽の国のルスダン
銅のケトル社(並木陽さん)
amazon

良い歴史物の少女小説でした。

Twitterで感想見かけて気になっていた、グルジアの女王ルスダンを描いた同人小説。グルジアのことは全然知らなかったのですが、amazonで販売されていて入手しやすかったので手にとってみました。そうしたら、素敵なロマンスであると同時に、歴史背景もしっかりしていて読み応えもあり、良い歴史少女小説でした。

時代はチンギス・ハンがモンゴルで猛威を奮う少し手前ということで、タイトル通り段々と傾いていくグルジアが舞台。序章がいきなり滅びの場面から始まり、寂しげに死を選ぼうとするルスダンの姿に目を奪われ。続いてキラキラとした子供時代が始まって、どういう変遷で滅びまで至るのか、一気に興味を惹かれました。

子供時代は頼れる兄王や隣国の幼馴染ディミトリとのやりとりが眩しくて幸せそう。身分差で結婚することはできないことが告げられるも、読者視点ではきっと大人になっても2人の間には何かあるんだろうとドキドキしていました。そう、この頃はまだ。

そんな平和な時代はあっという間に終わり、若くして重責を背負うことになってしまったルスダン。家臣にも侮られ、外敵も迫る中、思いがけずディミトリと結ばれたことだけが救い。ディミトリと2人で必死に国を支える気丈なルスダンを見てると、ディミトリがいて良かったという思いでいっぱいに。

それだけに、ディミトリとの別離はショックで、原因を作ったディミトリ馬鹿野郎! と叫びたくなりました。ルスダン視点で信じられないのは仕方ないですし、どう考えても相談を怠ったディミトリが悪かった。冷徹になったルスダンの姿を見るのが辛い。

それで絆が切れなかったのがこの物語の救い。離れてもルスダンを想い続け、自身ができることをやり遂げたディミトリは、馬鹿野郎どころか立派なヒーローでした。ルスダンとの別れ、誇り高い最期はとても胸に残りました。

そして1人残されたルスダン。最後の決意を見届けてから冒頭に戻ると、最期に至るまでを彼女がどういう気持ちで懸命に生きてきたのかが伝わってきて、切なくてたまらなかったです。歴史上のルスダンは淫蕩な女王と評されたりもするらしいですが、このルスダンは素敵な女王でした。ディミトリともっと生きて欲しかった。

130ページちょっとと短めですが、濃厚な物語でした。最近はあまり見かけませんが、歴史物の少女小説はやっぱりいいものだなと思います。