時計館の殺人<新装改訂版>(上)(下) / 綾辻行人

2016年11月5日(土)

時計館の殺人〈新装改訂版〉(上) 「館」シリーズ (講談社文庫) 時計館の殺人〈新装改訂版〉(下) 「館」シリーズ (講談社文庫) 時計館の殺人<新装改訂版>(上)(下)
綾辻行人
講談社文庫
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緻密な伏線からの大胆な結末! 面白かった!

館シリーズ第5巻にしてシリーズ一という評判も聞いていた本作。まあどうせ自分には仕掛け分からないだろうと達観し、驚く準備をして読み始めました。

前半部は、閉鎖された館が舞台という王道的なミステリの展開。小手調べの降霊会トリックのあたりは仕掛けも分かりやすくのほほんと読んでられましたが、どんどんと人が殺されていく展開がなかなかに怖い。異様な空間の中で、登場人物たちが精神的にやられていくのが分かり、また仮面の殺人者も不気味で、上巻読了あたりは雰囲気たっぷり。夜中に読まなくて良かったと思います。

で、読み進めていくにつれて由季弥が怪しく見えてくるも、怪しすぎて他に犯人いそうだないう予想に。登場人物たちも同じ考えに至っているあたり、作者の手の内ですね。で、時系列表が並べられて、「あ、この夜中に電話してるのアリバイ作りだ!」と気づきました(遅い)。夜中の電話とかあからさまに怪しいですよね……。でも気づいたものの、この時点では「数時間ずらすと合うのかなこれ」とか考えてました。完璧に術中ですはい。

こんな惨状だったので、犯人ははいそうですねとなりましたが、仕掛け、伏線、動機と明らかになっていくにつれて驚愕に翻弄されました。時計を使った壮大な舞台装置にはびっくりしましたし、何よりそこに至った父親の動機が凄かった。そういうことか! と膝を叩きました。なんという歪んだ執念。そして歪んでいたとはいえ、その舞台が16歳を迎えられずに崩れ去ったのはやるせなかったです。間違っていたのが正されたといえばそれまででも、あと数日……。そこから負の連鎖で本編の大量殺人に至ったのだと思うと、やはりやるせない。

それにしても、本当に伏線が綺麗に張り巡らされていました。カップ麺の件など、言われて「あああ!」と叫びました。睡眠薬だけじゃ味覚までは異常きたしませんもんね……。真相は、1992年など様々な伏線を結びつければ出せない答えでは決してなく、でも巧妙に各所に伏線ばらまかれていて分かりづらい。見事でした。

最後はお約束のように崩れ去る館。それもただ燃えるだけではなく、物語の流れの中での壮絶な崩壊は、美しさも感じさせられました。ミステリと物語が綺麗に噛み合っていて、館シリーズ一と呼ばれるだけはありました。自分の中でも今作が一番の評価。面白かったです。

おこぼれ姫と円卓の騎士 白魔の逃亡 / 石田リンネ

2016年10月30日(日)

おこぼれ姫と円卓の騎士 白魔の逃亡 (ビーズログ文庫)おこぼれ姫と円卓の騎士 白魔の逃亡
石田リンネ
ビーズログ文庫
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離れていてもレティと騎士たちの信頼関係が素敵でした。

衝撃の引きだった前巻を経て最終巻突入のおこぼれ姫シリーズ。離れ離れからのスタートでしたが、別々でも各々ができることを成していき、また情報をうまく伝達させていく様子は、レティと騎士たちがこれまで築いてきたものを感じさせてくれて、こういう最終章って素晴らしいな!とグッときながら読んでました。シェナンからメッセージが繋がっていくところとか興奮しましたね、ウィラードもアイリーチェもみんな有能。

レティはメルディと逃亡の旅。メルディ大好きな俺得展開でしたありがとうございます。苦手なアクティブ活動でもメルディ頑張った。悩むレティに対して、メルディがかけた明快な言葉と励ましが素敵でした、メルディ好きだなあ。その後のアストリッドとのボーイズトークでの姿もまたメルディらしい。鈍感だけど情報さえ与えられれば答えを出せるメルディ、そしてバッサリとドライなメルディ。メルディ好きだなあ(2回目)。

旅の中でもレティのこれまでの積み上げが実感できたのも良かったです。最後はシャルロッテとの間のロングパス。騎士たちには言えないだろう言葉を言ってくれました。素直になって、役者も揃って、さあ反撃だ、というところで次巻。いい引き!

というわけで続きとても楽しみなんですが、まだゼノンが怖いです。これまでもゼノンは割とレティの超常を垣間見てきているので、ゼノンならばレティの超常ファクターも十分考慮して思考しているのではないかと。フリートヘルム兄上は余裕で裏かけてるんですけどね……、対ゼノンはまだ一押しがいる予感がしています。怯えつつも幸せを祈って次巻を待ちます。

レディ・マリアーヌの婚約 / 宇津田晴

2016年10月22日(土)

レディ・マリアーヌの婚約3 (ルルル文庫) レディ・マリアーヌの婚約
宇津田晴
ルルル文庫
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またマリアーヌに出会えて嬉しかった!

まさかの5年ぶりのレディ・マリアーヌ新作。当時は期待のシリーズの2巻打ち切りを目にして、多くの読者が涙したものですが、今になって出るとは。たとえ功労者への最後のご祝儀であっても、出してくれたルルルさんにも書かれた宇津田さんにもありがとうございますと言いたい。

中身はいつもの宇津田さん作品の甘さ。両想いからのスタートの分だけ、普段よりも甘かったですね。マリアーヌはまあ普通に映るんですけども、ロベルトはがんがん甘い言葉吐きすぎです。レディ呼びが甘い甘い。両想いなのでお話の盛り上がりは少なめでしたが、幸せそうなマリアーヌが見れただけで満足です。

そんな中で美味しいところ持っていったのはカイル。従者ポジションの強みを存分に発揮してましたね。一番の座もキープできて、カイル大勝利でしょう。カイルも前作から応援したいキャラだったのでこういう結末迎えられて良かった。
裏切ったフリのシーンは本当は「えーっ!?」と叫ぶところなんでしょうが、宇津田さん作品でそんな裏切りが発生するわけないので、はい二重スパイですねと思って読んでました。モーリスさんおつかれさまでした。

あとがきの最後のかしこまった文章、ルルル廃刊のことを踏まえると、最後のご挨拶ですよねこれ……。宇津田さん作品の安心の甘さはルルルのレーベルととても合っていただけに、今後の宇津田さんがどうされるか気になります。どこかでまたお目にかかれますように。